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弊社代表取締役社長藤田勉の「CEOの在任期間が長い企業は株価が上がる」をテーマにしたコラムが日経ヴェリタスに掲載されました。

弊社代表取締役社長藤田勉の「CEOの在任期間が長い企業は株価が上がる」をテーマにしたコラムが日経ヴェリタスの令和の資本論に掲載されました。

CEOの在任期間が長い企業は株価が上がる

株式投資で成功するための最大の秘訣は、優れた経営者に投資することである。過去10年間に日本株(TOPIX=東証株価指数)が2.1倍になったのに対して、米国株(S&P500)は3.3倍と大きく上回る(10月末時点)。これは、経営者の能力の違いが理由の一つである。以下、経営者の在任期間に着目して、銘柄選択の手法を検討する。

株価は、景気や政治情勢などのマクロ要因と、企業業績などのミクロ要因で説明できる。両方とも予測が難しいが、特にマクロ要因の予測はたいへん難しい。例えば、トランプ関税の内容は発表直前まで予想ができなかった。2020年の前年に、新型コロナウイルス感染拡大による経済危機発生は予想できなかった。筆者は、2011年3月10日、翌日に東日本大震災が発生するとは夢にも思わなかった(参考:2011年の日経平均株価の安値8160円、円ドル相場高値75円)。

経験豊富な経営者は、次の危機にも高確率で対処可能

これら個々の事例は事前に予期できないが、「予期しない大事件がしばしば起こる」こと自体は予期できる。そして、大事件に際しては経営者の能力が重要になるが、それは経営者のトラックレコードを見ればおおむねわかる。過去、コロナ危機や大震災後の経済危機や株安・円高を乗り切った経験を持つ経営者は、今後の危機もうまく乗り越える確率が高い。

ミクロ要因の対応も重要である。過去10年の先進国で時価総額増加額1位のエヌビディアの祖業はゲーム用画像処理半導体の設計開発。現在では人工知能(AI)用半導体が主力事業である。アマゾン・ドット・コムの祖業は書籍の電子商取引。現在ではクラウドサービスが主力事業となっている。このように、優れた経営者は環境変化に対応して、ビジネスモデルを進化させることに成功している。

数年に一度やってくる大危機を乗り越え、ビジネスモデルを巧みに転換した経営者は、その度に自身の経営ノウハウを磨き、社内外の求心力を高めることができる。経営者の経験値はたいへん重要である。

過去10年間の先進国時価総額増加額上位30社は、世界を代表する成長企業であると言える(日本も同様)。これらの経営者の多くは、バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット氏の60年を筆頭に在任期間が長い。上位10社中7社がオーナー系企業であり、企業の長期的な成長には経営者の強力なリーダーシップが重要であることを示している。

非オーナー系企業でも、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン氏は在任期間19年(時価総額増加額12位)、アップルのティム・クック氏14年(同3位)、エルメス・インターナショナル(フランス)のアクセル・デュマ氏12年(同26位)、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏11年(同2位)と、10年超が多い。

世界の優良企業と比較して、日本の経営者は在任期間が短い。先進国では上位30人中14人の在任期間が10年超だが、日本ではそれが4人に過ぎない。過去10年間の時価総額増加額上位30社のうち、在任期間1位ソフトバンクグループ(9984)孫正義氏、2位ファーストリテイリング(9983)柳井正氏、3位イオン(8267)岡田元也氏と、上位をオーナー系企業が占め、いずれも株価が大きく上がっている。

非オーナー系企業で在任期間が10年を超える経営者は、伊藤忠商事(8001)岡藤正広氏のみである。岡藤氏は、リーマン危機後の2010年に社長に就任した。その後、大震災、コロナ危機など大きな危機を乗り越えて、就任時に純利益業界4位だった伊藤忠商事を2020年度に業界1位に押し上げた(日経予想では今期1位)。

歴史的には、非オーナー系企業の名経営者として、信越化学工業(4063)の金川千尋氏(社長と会長の合計在任32年)、ダイキン工業(6367)の井上礼之氏(同32年)がいる。いずれも経営者として長期に君臨してビジネスモデルを抜本的に変え、それらを高成長企業に変貌させた。

短い在任期間でビジネスモデルの大改革は困難

一般に、日本では社長任期は6年間が多く、上位30人中23人の在任期間が6年未満である。これではビジネスモデルを大きく改革することは困難である。また、予期しない大きな危機に際して、経営者が経験不足では、対応が後手に回ることになりかねない。

残念ながら、将来、ソフトバンクGやファーストリテイリングに続く有力なオーナー系企業は見当たらない。しかし、非オーナー系企業の中には、現経営者の在任期間が長期化する可能性がある企業があり、今後の持続的な成長が期待される。

任天堂(7974)の時価総額は過去10年間で6.1倍になった。古川俊太郎氏は46歳で社長に就任し、在任期間は7年であるが、まだ53歳である。今後、相当長い期間、古川氏が社長を務めると予想される。現在、ビジネス戦略を担当する古川社長とゲームプロデューサーのトップである宮本茂代表取締役フェローのツートップ体制である。

コア・コンピタンス(企業独自の強み)は、魅力あるキャラクターを継続的に生み出せることであり、ソフトウェアは自社制作が売上高の81%(2024年度)を占めている。スーパーマリオブラザーズ、ドンキーコング、ポケモン(ポケットモンスター)、ゼルダの伝説、あつ森(あつまれ どうぶつの森)など、世界的に有力なソフトウェア、キャラクターを数多く保有している。

東京エレクトロン(8035)河合利樹社長は在任期間が9年を超えたが、まだ62歳と働き盛りである。就任後、コロナ危機などを乗り越えて、純利益は2015年度の779億円から2024年度には5441億円と、7.1倍になった。株価は14.0倍になり、既に河合氏は名経営者と呼ばれる域にある。

AI向け半導体が市場をけん引しており、同社の得意な半導体製造装置の分野で世界シェアトップを目指すという。前任者の東哲郎氏は通算20年間にわたって会長、社長の座にあった。河合社長もそれに匹敵する長期政権になることが期待される。

結論として、日本でもCEO在任期間が長期化することによって、企業の成長力を高めることが期待される。

藤田勉(ふじた・つとむ) 一橋大学大学院経営管理研究科客員教授。元シティグループ証券副会長。ファンドマネジャー、ストラテジストとして約30年の経験を持つ。2010年まで日本株ストラテジストランキング5年連続1位

出典:https://www.nikkei.com/prime/veritas/article/DGXZQOUB2815F0Y5A121C2000000