
2026年8⽉5⽇ 5:00
令和の資本論

令和の資本論
投資を通じて⾒える世界の政治・経済、コーポレートガバナンス(企業統治)など資本市場のあり⽅を有識者が寄稿。原則毎週⽔曜⽇に公開
2月に始まったイラン対米国・イスラエルの軍事衝突の終わりは見えない。
これらが長期化する背景を分析し、世界の株式市場に与える影響について検討する。
多くの中東諸国では、アラブ人のイスラム教徒が多数派である。中東北アフリカ地域のイスラム教徒の人口は4.1億人以上と推計され(Pew Research2020年推計より集計)、同地域の人口4.4億人(2020年)の94%を占める。
イスラム教は、ムハンマドの定めた慣習を重視するスンニ派、指導者の血統(ムハンマドの子孫)を重視するシーア派に分かれるが、前者が全体の約90%を占める。歴史的に、シーア派は少数派だけに、政治的・経済的に不遇な立場に置かれてきた。
イランはこれらとは大きく異なり、多数がシーア派のインド・ヨーロッパ語族である。イランは、「アーリア人(高貴な人)の国」を意味する。紀元前550年ごろに成立したアケメネス朝は中東一帯を征服し、古代から文明を背負ってきたという誇りを持つ。オイル埋蔵量が世界4位、天然ガスが同2位であり(20年)、人口9200万人(25年国連中位推計)の大国である。
シーア派の盟主であり、豊かなイランが、貧しく差別されてきた各地のシ ーア派、つまり、イスラエルと敵対するヒズボラ(レバノン)、フーシ(イエメン)などを支援している。パレスチナのガザ地区のハマスはスンニ派であるものの、敵(イスラエル)の敵であるため、イランが支援する。
1972年に、パレスチナ解放機構(PLO)内の過激派組織ブラックセプテンバーは、ミュンヘンオリンピックでイスラエル選手団11人を殺害した。 1982年に、PLO攻撃のためにイスラエルがレバノンに侵攻した際、レバノン南部のシーア派住民2万人近くが犠牲になったと言われる。それを契機に、イランとイスラエルの関係は決定的に悪化し、イランの支援により武装組織ヒズボラが結成された。
ヒズボラとハマスはイランの支援を受けて、南北からイスラエルを攻撃してきた。2023年のハマスによるイスラエル襲撃をきっかけに、イスラエルはハマス、ヒズボラ、イランを徹底して破壊、攻撃している。
ロシアと中国は、イランに対し経済・軍事支援を行っている。中国はイランの最大の貿易相手国である。中国の原油購入量はイランの輸出量の約90%を占めており、年間5兆円規模(イラン政府予算の45%)の収入をもたらしている。
さらに中国は軍民両用技術、ミサイルやドローンなど防衛関連技術の移転を通じて支援している。中国の技術や部材を使うイランのシャヘド型攻撃ドローンは、低空、低速で飛行する長距離自爆型のドローンであり、短・中距離弾道ミサイルと組み合わせ、攻撃を仕掛ける。
これらが海上攻撃で大きな効果を発揮する。イランとオマーンの間のホルムズ海峡と、紅海の出口のバベルマンデブ海峡は、いずれも最も狭い地点で幅約30キロメートルの海上輸送の要衝(チョークポイント)である。
25年には、世界の海上石油貿易の約25%と世界の液化天然ガス(LNG)輸出総量の20%がホルムズ海峡を経由した。サウジアラビアは、アラビア半島を横断して紅海側までを結ぶ約1200キロメートルのパイプラインを敷設している。イエメンは紅海の出口に位置する。15年以降、反政府武装組織フーシ(シーア派の分派)は、イエメンの首都サヌアや紅海沿岸を支配している。フーシはイランと連帯し、イスラエルを軍事攻撃し、海峡封鎖を試みる。
イランによるドローンや機雷などを用いた攻撃により、米国は両海峡の制海権を掌握できていない。ベトナム戦争でゲリラ戦を展開する北ベトナム側相手に米国が苦戦したのと同様、イランが想定以上に抵抗している。今後も、イランは両海峡封鎖を有効な交渉手段に使い、米国は苦戦を強いられる可能性がある。
米国トランプ大統領は何度も早期終結を宣言してきたが、海峡封鎖を解除できていない。11月に米中間選挙が予定されており、ガソリン価格上昇に対する世論も批判が強いため、トランプ大統領が半ばあきらめる形で軍事衝突が終了する可能性がある。それでも、両国の対立は根深いため、長期的に世界の原油市場を大きく揺るがし続けることであろう。
ただし、時間がたつにつれ、米国、ブラジル、カナダ、ロシアなどの原油生産が増加しよう。このため、原油価格が大きく上昇し世界経済に多大な影響を与える可能性は低いと予想される。世界の株式市場の上昇基調に大きな変化はあるまい。
これまでの人工知能(AI)関連株の上昇ピッチがあまりにも早かっただけに、最近の調整はむしろ相場の持続性という点から好ましい。たとえば、キオクシアホールディングスの株価は6月高値から7月17日の安値まで52.1%下落した(終値ベース、以下同)。昨年安値から今年高値まで71.6倍になったため、当然の調整と思われる。今期FactSet予想株価収益率(PER)は5.7倍と著しく低い。

生成AIの進化によって、SaaS(クラウド型ソフトウエアサービス)企業やITサービス企業の株価が急落している。アクセンチュアの株価は今年の高値から安値まで56.9%下落した。7月14日に、IBMの株価は25.2%下落した。
幸いにして、日本はITサービス企業やSaaS企業の時価総額構成比は相対的に小さく、時価総額上位に半導体関連の製造業が多い。そのため、過去5年間の株価上昇率では、日本が米国や欧州を大きく上回っている。結論として、30年に向けての世界のAIバブル相場を日本の半導体関連企業がけん引することだろう。

藤⽥勉(ふじた・つとむ) 元シティグループ証券副会⻑(現:株式会社ストラテジー・アドバイザーズ 代表取締役社長)。ファンドマネジャー、ストラテジストとして約30年の経験を持つ。2010年まで⽇本株ストラテジストランキング5年連続1位。⼀橋⼤学⼤学院経営管理研究科客員教授などを経て2022年6⽉から現職。
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