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弊社代表取締役社長藤田勉のコラム「米モンロー主義、「トランプ後」も継続 防衛銘柄に恩恵」が日経ヴェリタスに掲載されました。

米モンロー主義、「トランプ後」も継続 防衛銘柄に恩恵

米国のドナルド・トランプ大統領はベネズエラ大統領を拘束したり、グリーンランド購入を主張したりしているが、これについて「荒唐無稽」「血迷ったか」と言う人も多い。しかし、地政学や歴史を正しく理解すれば、こうしたトランプ大統領の一連の行動が理解できるはずである。以下、地政学による分析を株式投資に生かす方法を検討する。

地政学は、19世紀後半以降に発達した。アルフレッド・マハン(米国)のシー・パワー理論、カール・ハウスホーファー(ドイツ)の生存権理論、ニコラス・スパイクマン(米国)のリムランド理論が代表的なものであるが、最も有力なものがハルフォード・マッキンダー(英国)のハートランド理論である。

マッキンダーは、ユーラシア大陸中央部(旧ソ連やモンゴル帝国の領土に相当)をハートランドと呼んだ。そして、ハートランドとリムランド(西欧など)が接する東欧で紛争が起きやすいとして、「東欧を制する者が、世界を制する」と主張した。

東欧は、多くの民族、言語、宗教が複雑に入り交じる。第1次世界大戦は、1914年に東欧のサラエボでオーストリア皇太子が暗殺されたことから始まった。第2次世界大戦は、1939年にドイツとソ連によるポーランド侵攻で始まった。その後も、ベルリン危機、ハンガリー動乱、プラハの春、ベルリンの壁崩壊、ユーゴ内戦、ロシアのウクライナ侵略など、世界を揺るがす大きな動乱が起きた。

米国のDNAは「欧州との決別」である。1620年に、英国で迫害されたピューリタンが米国に渡航し、新世界を開拓した。その後も、アイルランド人、イタリア人、ユダヤ人などが貧困や迫害から逃れてきた。1776年に、重税に苦しんだ植民地13州は当時世界最強の大英帝国に勝利して独立した。

当時、欧州では、国王や貴族が支配する絶対王制や植民地を搾取する帝国主義が支配的であった。それらと決別し、米国は世界初の民主主義国家と世界初の成文憲法をつくった。今なお「欧州との決別」は多くの保守派に支持される。

1823年のモンロー宣言では、米欧相互不干渉を国是とし、「米州大陸は米国の縄張り」と主張した。米国は1803年にフランスからルイジアナ、1867年にロシアからアラスカを買収。1983年にはレーガン大統領がグレナダのオースティン将軍、1989年にはブッシュ大統領(父)がパナマのノリエガ将軍を拘束した。

トランプ大統領は、2025年12月にトランプ版モンロー主義と言われる新国家安全保障戦略を、26年1月には国家防衛戦略を公表した。これらは、米国の安全保障に深くかかわる西半球(米州とグリーンランド)を重視する一方で、東半球にある欧州との関係見直し、中国との決定的な対立の回避を基本戦略とする。ベネズエラ大統領拘束やグリーンランド購入検討は、これらに沿ったものである。

こうして、米国は伝統的な外交政策である孤立主義(米国第一主義)に回帰している。

米国は、次世代ミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」構想を推進する。これは、地上と宇宙に配備した迎撃システムや人工知能(AI)などを組み合わせて、ミサイル攻撃から米国を防衛するものである。トランプ大統領は、レーダーなどの設置のためにもグリーンランド購入が必要とす
る。

トランプ大統領は29年1月に退任する予定だ。次期大統領選は民主党に有力な対抗馬がおらず、後継者としてバンス副大統領が有力視される。その場合、これらの戦略は長期化するであろう。

米国は日本を含む同盟国に対して、国内総生産(GDP)比5%以上の防衛費の支出を求めている。欧州連合(EU)加盟国の国防費GDP比は2.1%(2025年見込み)である。さらに、欧州委員会は130兆円規模の再軍備計画を発表した。日本では防衛費の同2%を達成する見込みである。これらは、株式市場に大きな影響を与え、世界的に防衛産業の株価が大きく上昇した。

歴史的に、軍事技術から多くの民生用技術が生まれてきた。その例が、ジェット機(1944年、独メッサーシュミット)、原子力発電(1951年、米国)、コンピューター(1946年、米陸軍の弾道計算用)、インターネット(1969年、米国防総省)、移動体通信(CDMA、米クアルコム)、ドローンなどである。今後も、兵器が高度化し、多くの民間企業に恩恵をもたらすことであろう。

米議会予算局(CBO)は、ゴールデン・ドーム構想の費用が20年間で合計最大120兆円以上に達すると試算した。ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、パランティア・テクノロジーズ、スペースXなどの受注が有力視される。

時価総額で世界最大の防衛関連企業であるパランティアは、米国の国防総省や北大西洋条約機構(NATO)に対して、データ分析のためのソフトウェアやAIを活用したプラットフォームを提供する。売上高の55%が政府向けである(24年度)。

ロシアに直接対峙する欧州では、エアバス(過去1年の株価上昇率24.1%)、サフラン(同30.5%)、ロールス・ロイス・ホールディングス(同2倍)の株価が上昇した。世界防衛産業時価総額10位のドイツのライン
メタル(同2.5倍)は、2024年度までの過去10年で売上高は2.1倍、純利益は1400億円と62倍になった。武器・弾薬部門が営業利益の53%、戦車などの車両システム部門が同29%を占める。

三菱重工業(7011)の防衛省納入額(契約実績、2024年度)は1.5兆円と圧倒的に大きい。航空・防衛・宇宙セグメントは、売上高の21%を占める(2025年3月期)。川崎重工業(7012)、IHI(7013)、三菱電機(6503)も兵器の製造に強い。NEC(6701)、富士通(6702)は情報通信システムを開発しており、NECはKDDI(9433)、富士通はロッキードと提携する。

結論として、トランプ版モンロー主義により、世界の安全保障情勢は大いに不安定化し、今後も株式市場に対して大きな影響を与えることであろう。

藤田勉(ふじた・つとむ) 元シティグループ証券副会長。ファンドマネジャー、ストラテジストとして約30年の経験を持つ。2010年まで日本株ストラテジストランキング5年連続1位。一橋大学大学院経営管理研究科客員教授などを経て2022年6月から現職

出典:日経ヴェリタス

https://www.nikkei.com/prime/veritas/article/DGXZQOUB273OY0X20C26A1000000